硫酸イオンによるpH非依存的リゾチーム活性の阻害

 リゾチームは,生物に広く分布する溶菌酵素の一種である。鳥類の持つC型リゾチーム(ニワトリ卵白リゾチーム)と無脊椎動物の持つI型リゾチーム(ヤマトシジミリゾチーム)は,一次構造には相同性は見られず,進化系統的に異なる起源をもつと考えられている。しかし,反応部位周辺の二次構造の類似性が高く,反応中間体を形成する維持型機構の反応を触媒する点で共通である。ワカメ,コンブ,ヒジキなどに含まれる酸性多糖類のフコイダンはリゾチームの活性を阻害すること明らかになっている。この阻害はフコイダンに含まれる硫酸基密度に依存する。しかし,この阻害の詳細な作用機序や生物学的意義は知られていない。
 そこで,フコイダンによるリゾチームの活性阻害の生化学的知見について,溶菌法を用い検証した。その結果,硫酸イオンがC型リゾチームを阻害することが示された。この阻害は,塩化物イオンでは見られず,硫酸基の構造が阻害に関与していることが示唆された。また,硫酸イオンはヤマトシジミやマガキのI型リゾチームも阻害した。これらの生物は,ワカメなどの海藻の捕食者であることから,海藻は,硫酸基を有するフコイダンを体表に発現し,捕食者の腸内環境を撹乱することで,捕食者の自然免疫を阻害する可能性が考えられる。

宮部真美,國府田宏輔†*
茨城県立水戸第一高等学校生物同好会部〒310-0011 茨城県水戸市三の丸3−10−1
 (2019年3月1日 受付;2019年3月22日 受理)